此処で時間を巻き戻そう。

客間にあてがわれた部屋に入ると士郎は布団の上で座禅を組み瞑想に入る。

そのまま呼吸を整え生成させた魔力を回路に詰め込めるだけ詰め込み余剰分はブレスレットに流し込む。

ゼルレッチらの師事を受けた時から溜め込み続けたその魔力量は合計すれば既に士郎の回路三本分に匹敵する。

静かに最後の前準備を整えようとしていた士郎だったが、襖越しに人の気配を感じ取り、眼を開く。

「・・誰かいるのか?いるんだったらいいぞ入ってきても」

その言葉を聞き襖の気配は一瞬たじろぐような様子を見せたが、数分後意を決したように襖を開けて部屋に入る。

その人物は

「お、お邪魔するわよ・・・士郎」

凛だった。

五十四『十二月二十四日・剣』

「凛・・・一体どうしたんだ?・・・いやそれよりも座れって。立ったままもなんだから布団の上でもいいから座れよ」

「え、ええ・・・」

言葉少なげに凛は士郎の対面するように座る。

「・・・」

「・・・」

それからしばし士郎も凛も口を開かない。

凛は言おうか言うまいか迷っているように思え、士郎はそんな凛の様子を察したのか自分から口を開こうとしない。

「・・・何を聞かないのね」

ようやく口を開いた凛の口から出たのはそんな言葉だった。

「お前が此処に来た事か?俺から強引に聞き出すのも何だしな」

「そう・・・ねえ士郎、こんな直前になって・・・こんな事を聞くのも変だけど聞かせて。何で行くのよあんた」

「・・・」

「あんたこの戦争良くやったわ。あんたがいなけりゃロンドンはとっくの昔に『六王権』軍に良いように蹂躙されていた。私も多分生きていなかったと思う」

「・・・俺は特別な事は何もしていない。ただ守りたい人がいたから戦ったそれだけだよ」

士郎の心の底からの本音に凛の頬が紅潮する。

「そ、そう?だけどもう良いじゃないの。わざわざ『闇千年城』まで行かなくても。相手は総攻撃してくるのよ。そこを迎え撃って敵を撃滅すれば良いじゃないの。それから改めて『闇千年城』に向えば良いじゃないの。何でわざわざこっちから罠かも知れない場所に行こうとするのよ」

凛の真摯な問い掛けに士郎も本音で答える。

「利口に考えればお前の考えが正しいんだろうな。だけど、罠の可能性は俺も志貴も皆無だと考えている」

「何で・・・」

「俺達もあいつらもこの決着に邪魔をされたくはないと考えている。だからあいつらはほぼ同時に総攻撃を仕掛けたんだと思う。出なきゃわざわざ総攻撃の日にちを敵に教えるか?」

「信じているの?敵を」

「確かに敵だが、決着に対する思いは共通していると信じている。それにそうでなきゃ俺も志貴もそして『六王権』も『影の王』も納得しない」

「・・・」

士郎の確信じみた言葉に掛ける言葉も見つからない凛。

「・・・予測はしてたけどどうにもならないかやっぱり」

「悪い凛」

「いいわよ私だってあんたの頑固さは嫌って程知っているし。じゃあもう一つ聞きたいけど勝機あるの?」

凛のストレートな質問に士郎は苦笑する。

「こいつに関してはなんとも言えない。まあ少なくとも、ロンドンの時にように一方的にやられる事は無いさ」

その言葉に凛は四ヶ月前の戦いを思い出す。

士郎と『影』の戦い、最初こそ士郎がやや優勢だったが『影』が『影の帝国(シャーテン・ライヒ)』と言う反則技を展開してから形勢は逆転、士郎が瀕死の重傷を負いながらも辛くも引き分けに持ち込んだあの戦いがまざまざと頭に蘇る。

士郎も『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』と言う鬼手を持っている以上、本人が言ったように圧倒的不利の状況にはならないだろう。

だが、それも相手がそれ以上の切り札を持っていない事が前提条件となる。

その事は士郎も凛もわかっている。

しかし、所詮、仮定の話、あるかどうか判らない。

戦場に向う以上はあると最悪も想定した上で進まなくてはならないが、それを話しても埒が明かない時がある。

今はまさにその時だった。

「・・・じゃあ魔力はどうなの?」

「回路には詰め込むだけ詰め込んでいる。コーバック師から渡されたブレスレットにも詰め込んだ・・・まあ現状できる限りの手は打ったがこれでも万全かと言われれば言葉は詰まるがな」

そういう士郎を無言で見ていた凛は意を決したように口を開く。

「それなら士郎」

「??どうした」

「私とラインを繋ぎましょう」

「ラインだって?」

「ええ、ラインを繋ぎ私の魔力回路とあんたのと繋ぐ。そうすれば私の魔力も使う事が出来る。間接的だけど援護も可能になるわ」

「だが、お前だってパリに向うんだろう?そんな時に貴重な」

「あんたに心配されなくても大丈夫よ。極めて不本意だけど力もあるし」

その力について士郎は聞きたかったが、凛が『極めて不本意』という一言に不自然なほど力を込め、その表情も極めて硬かった事から聞いてはならない事なのだろうと思い、口にするのを止めた。

その勘は正しく、もしも士郎がその事を聞こうとしたら士郎は物理的な方法で記憶を抹消されていた筈だ。

最悪命を取られていたかも知れない。

「そうか・・・まあお前が言うんだから間違いないんだろうな。だが、良いのか」

「良いに決まっているでしょ。大体ね、聖杯戦争から始まって今日まで私にどれだけ借りを作らせる気よ」

「借りって・・・別に俺は」

「この際あんたの感情は問題にならないの。私の感情の問題なのよ。だから」

士郎は凛の眼が本気である事を悟る。

「・・・判った。この際使えるものは喜んで使わせてもらうよ」

「それで良いのよ」

「それで凛どうやってラインを繋ぐ?師匠辺りに話を通せば必要な道具用意してくれると思うが」

「必要ないわ」

「必要ないって・・・もう用意しているのか」

「・・・」

そこで何故か凛は口を噤む。

しかも頬もやや赤らめている。

「??凛・・・」

「士郎・・・あんたも知っているでしょ・・・男と女の魔術師でなら道具も使わずにラインを繋ぐ方法があるって事位」

「え・・・えっ!!」

最初何を言われたのか全く理解できなかった士郎だったがその意味を把握した。

「い、いや・・・ちょっと待て、まさかと思うが」

「そのまさかよ。性行為を行い、それでラインをつなげるわ」

「いや、だが」

「それにこれは等価交換よ」

「え?等価交換」

「そう、あんたは魔力を得る。そして私はあんたからの借りを全部まとめて帳消しに出来る。それだけよ」

凛の断言にしばし士郎は困ったように思案していたが、やがて

「凛やっぱりやめよう。お前の気持ちは嬉しいけど、俺はこんな事の為に」

意を決した言葉を最後まで口にする事は出来なかった。

突然凛は士郎の胸元に飛び込むや、その勢いのまま士郎を押し倒し続けざまに士郎とキスをした。

「!!」

突然の事で完全に思考が停止し、士郎は凛のされるがままにキスを受ける。

その鼻腔には石鹸等の匂いに混じり凛自身の匂いも注ぎ込まれる。

やがて、永遠とも思える時間の後ようやく離れ、凛は口を開く。

「・・・嘘」

「え?」

「等価交換なんて嘘。貸し借りなんて全部嘘・・・士郎、私はあんたの事が好き」

「・・・え?」

問答無用でキスをされ、更にその動揺が収まる前に告白までされて士郎は完全に真っ白になった。

「あんたは知らないでしょうけど私は何年も前にあんたを初めて見た。夕暮れ時の校庭で馬鹿みたいに飛べる筈も無い高さを飛ぼうと足掻く馬鹿を」

それは間違いなくあの時、士郎が自身の誓いを揺るがぬ様にしていた自己満足の儀式。

「それを私も桜も見た。どうしようもない大馬鹿を。飛べる筈なんて絶対にありえない高さをただ延々と挑み続けて失敗しても止める事も諦める事も無くただひたすら挑んでいったあんたを」

「あれは・・・」

「あんたにとっては大した事じゃないかも知れないけど私にとっては何かがひっくり返った。そして私の心の中にあんたが居座るようになった。そして桜からあんたが部活の先輩だと知り、そして付かず離れずのような関係が始まった」

「・・・凛」

「士郎・・・あんたは私の事を友人だと言っていたけど、私はあんたに友人としてなんて見られたくない。恋人として見られたい・・・それとも私とじゃ嫌?猫かぶりであんたをいつも口汚く罵って、手まで出してお淑やかとは無縁の私とじゃ嫌?」

「凛・・・」

士郎は自然と凛の頬に手を寄せて触れる。

「ありがとうな。確かにお前の猫かぶりは半端無いし。散々怒鳴られたり色々されたけど、俺はお前のそんな所も・・・いや全部ひっくるめて好きだぞ」

自然に微笑みながらの士郎が言った一言に凛はもう自分の感情を抑える事を止めた。

「士郎・・・抱いて。ラインとか等価交換とかそんなのは二の次にして私を女として抱いて」

「凛」

意を決して自分の胸元に引き寄せようとして

「なるほど、これが告白と言うものなのですか」

突然の第三者の声に士郎は思いっきり凛を突き飛ばした。

「なっ、ななな」

「ば、ババババ・・・バルトメロイ!!」

士郎と凛の視線の先、そこにはバルトメロイが興味ありげな視線を二人に向けていた。

「どうしましたか?エミヤ、トオサカ」

「どうかしましたかじゃないでしょうが!!何、そんなところにいるのよ!!あんたは!!」

激昂のあまりバルトメロイにタメ口を叩いてバルトメロイに詰め寄る。

「何って、当然エミヤに子を宿してもらう為に来ただけですが」

「そんなの永久に後にしなさいよ!!士郎はこれから私と愛し合うの!!さっさと出て行きなさいよ!」

「そう言う訳にも行かないのです。是非とも今日エミヤと子を作らねばならないのです」

「??どう言う事だ?」

「今日は私に子が作りやすい日だと言う事です。ですので是非とも」

それは 早い話排卵日と言う奴なのだろう。

「エミヤ、それと一緒に私ともラインを結びましょう」

更に言ったバルトメロイの一言に凛が更に激昂しかけるが機先を制するように

「一人よりは二人の方が支援出来る量も増えますし」

バルトメロイが言った一言に悔しそうに口を噤ませる。

だが、二人で終わる筈もなかった。

突然、襖が勢い良く開くと

「姉さん!」

「トオサカ!!!!」

「リン!!」

桜、ルヴィア、イリヤが怒り心頭で雪崩れ込んできた。

「桜?ルヴィア?それにイリヤも一体どうした??」

「どうしたもこうしたもありません!!姉さんでしょう!!私たちの部屋に結界を張って封印したのは!!」

「おまけに結界を解こうとしたら結界が迎撃を仕掛けるなんて・・・悪辣極まりありませんわ!!」

「全くよ!!お陰でシロウのところに来るの遅くなったじゃないの!!」

「えっと・・・凛さん」

やや乾いた表情で凛を見る士郎だったが当の本人は罰の悪そうな顔でそっぽを向くだけだった。

「先輩!!それよりも姉さんとは行く所まで行ったんですか!!」

そこに話の脈絡を断ち切って桜が士郎に詰め寄る。

「えっと・・・一応告白されて・・・」

「だったら、私も先輩の事が好きです!!」

「え?」

いきなり桜からも告白された。

だが混乱するのは此処からだった。

「卑怯ですわよミス・サクラ!!シェロ、私もシェロの事を好いておりますわ!!」

「え、え、え、え、え?」

「ずるーい!!サクラもルヴィアも!!シロウ!!私だってシロウの事大好きよ!!」

「えーーーー!!」

桜に続いてルヴィア、イリヤからも不意打ち気味に告白されて士郎は絶叫するしかなかった。

「お、お嬢様!!お気を確かに!!エミヤ様のような男等お嬢様に相応しくありません!」

「そうかな?シロウ強いし優しい」

「それとこれとは別ですリーゼリット!この様な女性に対して不誠実な男の何処が相応しいと言うのですか!!」

「あらあら、いつの間にか修羅場となってしまいましたわね衛宮士郎」

何時の間に現れたのかセラは金切り声寸前の声を上げてリーゼリットはそんなセラをやんわりと嗜める。

そしてカレンはにやりと悪役そのものの笑みを浮かべご満悦だった。

「何でこうなったんだろう・・・」

士郎は士郎で三連続告白の衝撃からようやく抜け出れたが、まだ茫然自失といった状態だった。

そこに更なる追い討ちが掛かる。

「「シロウ」」

不意に直ぐ傍らから名を呼ばれて振り向くや否や、まずアルトリアに、続いてメドゥーサにキスをされた。

『!!!』

今まで喧々囂々の一堂だったがそれを見た瞬間一気に静まり返った。

一名だけはこの状況を心底面白そうに見ていたが。

「ア、アルトリア!!何してるのよあんた!!」

「メドゥーサ!!何で先輩にキスを!しているんですか!!」

遠坂姉妹の詰問に英霊二人の返答は単純明快極まりないものだった。

「??そんなに不思議ですか?リン私もシロウを愛しているので接吻をしただけですが」

「サクラ、シロウに言葉よりも行動で私の嘘偽りの無い想いを示しただけですが」

あまりに単純明快な言葉に思わず言葉を失う一同。

そこに暫く無言だったバルトメロイが状況を理解したと言わんばかりに一つ頷いた。

「なるほど、つまり私を含めてこの場にいる全員、エミヤに何がしかの好意を抱いていると言う事ですね」

その言葉に不穏な一言を聞いたルヴィアが思わず詰め寄る。

「バルトメロイ、今『私も含めて』と言っていましたが、貴女はシェロを殺したいほど憎んでいたのではなかったですか?」

「確かにその通りです。ですがそれはもう終わった事。現に既に何度も肌を合わせて子を作ってもらっていますが」

此処に来て遂にバルトメロイは最大級の爆弾を落としてくれた。

「・・・衛宮君・・・」

「凛お願いだから止めてくれ。こめかみに零距離でのガンドは文句なしで死ぬ」

かつて無いほどの怒りを込めた凛の声に士郎は冗談抜きで怯える。

それに釣られるように全員士郎に怒りの視線を向けてくる。

だが、それを吹き飛ばすバルトメロイの爆弾発言はまだ残されていた。

「何を怒っているのです?トオサカ?エミヤに何人も愛人がいたとて問題ではないでしょう。これだけの器の持ち主です。むしろ数多の女性が惹かれるのは当然なのでは?我が家にこれだけの器の持ち主を一員として迎えられ、私が見初めた男と言うのは非常に誇らしい事です」

その瞬間全ての視線はバルトメロイに集結していた。

「ど、どう言う事です!!先輩がバルトメロイの一員と言うのは!!」

「言っていませんでしたか??」

『初耳よ(です・だ)!!』

士郎も含めて全員の声がはもる。

「そうですか、昨日ようやく家の許可が下りました。エミヤを正式に私の夫としてバルトメロイに入れる事を」

それはもはや爆弾を超えたものだった。

全員絶句する。

「・・・バルトメロイって名門中の名門だろう?『どこぞの馬の骨等入れる事が出来るか』って言う奴が多かったんじゃないのか?」

「ええ、と言うよりも今もそれは大多数の意見です。何しろ我がバルトメロイは力と血の純潔を保つ為、昔は近親での交配、今ではクローン技術を使って子孫を残してきました」

バルトメロイの思わぬ言葉に天を仰ぐ士郎。

「七夜と同じ事を反対側でもやっていたのか・・・」

「そう言う訳で馬の骨と言う以前にバルトメロイに他の家の血を入れる事に嫌悪と抵抗を持つ者が反対の声を上げていますが、それも黙らせました」

「黙らせた?」

「ええ、エミヤ、貴方の固有世界という鬼手。大禁呪である固有結界をも越えるものを持つ者をバルトメロイに入れる事は不利益にならないと言って。それに近年、バルトメロイの血に濁りが出つつある事も問題になっていましたから」

「濁り?」

「奇形児が数多く出産されるようになったのです。現に私が生まれてから全ての赤子は全て奇形児でした。調べてみれば我が祖先がエミヤと結ばれた時期も奇形児が数多く生まれ家の存続すら危ぶまれる程だったと聞きます。ですので、これはそろそろ他家の血を入れる頃合なのでしょう。それでです、話を変えますが、全員エミヤとラインを繋ぐ為に此処に来たのでしょう」

バルトメロイの質問に躊躇い無く、恥かしげに、渋々ながら差はあったが全員首を縦に振る。

セラやカレンすらもだ。

「ならばいっその事全員、エミヤとラインを繋ぐのはどうでしょうか?誰かが一人だけがラインを繋いでも今後しこりが残るのは確実です。ならばいっその事全員と繋いだ方が良いです。支援の数が多ければ多いほどエミヤが生還出来る可能性は高いのですから」

「はあ!ぜ、全員!!」

あまりの事に士郎は声を上げる。

しかもそれを程度の差はあれ全員了承してしまった。

「確かにバルトメロイの言い分にも一理あるわね。仕方ないけどそれに乗らせてもらうわ」

「そ、その先輩・・・不束者ですが」

「シ、シェロ、光栄に思いなさい、この私の肌に触れられるのですから」

「むぅーいいもん!!こうなったら私の力でシロウをメロメロにしてやるんだから!!」

「よ、よろしいですか!!これはあくまでもお嬢様が悲しまない為の非常措置です!そこを勘違いしないように!!」

「本当セラ素直じゃない」

「私の支援など無いに等しいですが貴方の飢えた欲望を受け止めなければなりません。神に仕えるものとして」

「シロウ、安心してその身を委ねて下さい」

「殿方を悦ばせる術は身に付けています」

「そう言う事ですエミヤ、では早速」

完全包囲され、期待に満ちる視線(若干違うものも混じっていたが)で全身を貫かれては流石の士郎も打つ手は無い。

彼に残された道は頷く事だけだった。









そして数時間後・・・

「・・・何が優しくするよ、何が中に出さないよ、このケダモノ」

その眼に涙を滲ませ、か細い声で士郎を弾劾しているのは全裸の凛。

この台詞だけ聞くと士郎が欲望の限りを尽くして凛達を貪り尽くした様に聞こえるが実際はそのような事はない。

ラインを繋ぐ際、士郎はかつて自身の初体験と同じく強化をし続け、射精を渾身の力で堪えていた。

また、その行為は極めて優しく、相手を気遣い、それでいて相手に快楽を与えるに十分なものだった。

その結果、バルトメロイまでは全員を絶頂に迎えさせ、その時にラインを繋いだ。

しかし、最後のバルトメロイまで来たときそれは起こった。

射精をどうにか堪えラインを繋いだ瞬間気が緩み強化が緩んだ時を見計らったようにバルトメロイが動き出し、士郎に射精を促す。

気を緩ませていた士郎はたまったものではなく、今まで堪えていた分一気に射精、バルトメロイの体内に注ぎ込んだ。

それを確認して勝ち誇ったように(士郎からは見えない)凛達に視線を向け、それに触発された全員は士郎ともう一度の性行為に突入、結局士郎は全員の体内に射精をしてしまった。

「あれだけ中には出さないって言っておいて・・・この嘘つき」

(いや、外に出そうとしたら泣いて『中で出して』っておねだりしてきたのは何処のどなたですか)

「ま、全くですわシェロ、この私にあ、ああああ、あのようなはしたない格好をさせて、おまけにあのよう、なはしたないおねだりを言わせるなんて・・・」

(えっと四つん這いになっていやらしく『入れて』と俺が言う前に自発的に言ったのでは?)

「えっと・・・私初めてなのに・・・先輩にあんなはしたないおねだりまで・・・」

(確か『姉さんと一緒に犯してください』だったかな?しかし凛と桜を交互に犯すと言うのも興奮したな)

「ああ、神よお許しを神に捧げるべき純潔を奪われてしまいました。あまつさえ、中までも穢されてしまいました」

(おいこらそこのサドシスター、人が外に出そうとしたら聖骸布で自分諸共拘束した癖にどの口でそんな事を抜かす)

「全く、リンもルヴィアもカレンも大人気ないわね。シロウに抱かれてあれだけ気持ち良さそうだったのに。シロウ、本当に気持ち良かったわ」

(イリヤ、そう言う事を笑顔で清々しく言わないでくれ。罪悪感が更に膨れ上がる・・・)

「あ、あああああ・・・なんと言うことでしょうかお嬢様の純潔を守る事も出来ずあまつさえその手伝いを・・・」

「セラ進んでやっていたと思う」

(うんそうだな、先に済ませた所為もあるだろうけど、嬉々として手伝いしてたよな。それをさせた俺も俺だけど)

「はあ・・・シロウ素敵でした・・・」

「本当です・・・私が学んだ殿方の悦ばせ方など児戯に等しかったです。

(いや、この二人を同時にやると言うのも燃えるものがあったな・・・)

「これだけの人数を相手にして全員を満足させるとは・・・さすがですねエミヤ」

(・・・それを言うな・・・)

全員の言葉に心の中で反論したり同意したりする士郎。

その士郎はと言えば正座して(させられて)凛達の弾劾等をただじっと聞いていた。

反論等を口にしないのは喋るなと凛、ルヴィアから直接厳命を下されていた所為であるが喋れたとしても反論等は口にしなかっただろう。

おそらく、いや十中八九、下手に口にすれば実力行使で記憶を消滅させようとするだろうからだ。

「で、士郎、ラインは繋げたんでしょうね?」

繋げていなければ殺すと眼で訴えていた。

「ああ、きちんと繋がった。皆、本当にありがとう」

そう言って深々と頭を下げる士郎。

現に士郎には凛達十人のラインがしっかりと繋がり、早速回路に魔力が供給されていた。

「別に礼には及びませんエミヤ。私も貴方の子種を貰ったのです。これで確実に子を宿せるでしょう」

そう言って愛おしそうに自身の腹部をさするバルトメロイ。

それを見てじど眼を士郎に送る凛達。

「さ、さてと、ちょっと風呂でも見てくるか。温くなっているだろうから沸かし直してくる!」

そんな視線に耐え切れず士郎はそそくさと部屋を出て行った。









「あ〜酷い目にあった。おまけに志貴の奴全て判っていると言わんばかりの口ぶりで・・・」

ぶつくさ言いながら風呂に入り、先程までの汚れを清める。

「全く酷いわねご主人様どうして私を呼んでくれなかったの?」

不意に呼ばれた声の方向を見ると裸のレイがふくれっ面をして士郎の横で座っている。

「勘弁してくれお前まで来たら収拾が付かなくなる。それにラインを繋げるのが主目的なんだから」

「その割にはご主人様絶対楽しんでいたでしょう。リンとサクラを交互に抱いている時なんか本当に嬉しそうだったわよ」

「まああれはあれで興奮したしな。と言うかそれはそれって奴だよ」

「全く・・・まあいいわ、所で私もお腹が減ったんだけど」

そう言って士郎に意味ありげな視線を向ける。

「無理、さすがにあの数じゃあガス欠だから」

事実である。

「血でもよければすぐやるけど」

「はあ・・・まあ良いわ、結構精ももらっているし、だけど!この戦いが終わったら必ず私に精を補充する事!!良いわね!」

そう言ってレイは白猫に姿を変えて風呂場を後にした。









風呂から上がり、まず凛達に風呂を沸かし直したと伝えてから志貴の待つ縁側に向った。

「遅かったな士郎」

「ああ、凛達に風呂に入るように伝えたからな」

そう言って縁側に胡坐をかく。

そんな士郎に志貴は茶碗に酒を注ぎ士郎に手渡す。

「良い月だろう?」

「ああ、満月じゃないけどな」

「満月でなくてもいいのさ。見る者の心が安らげば」

そう言って茶碗を軽くぶつけ合い乾杯、二人揃って酒を飲み干す。

そこからは手酌で、もしくは相手の酒を注ぎあい、時には盛られた荒塩を軽くつまんで口に運ぶ。

「日本酒に塩って合うんだな」

「ああ、昔から俺が好んでやっている飲み方なんだ」

そんな他愛のない話を二人は一升瓶の酒を飲み干すまで続く。

やがて、残り僅かになった酒を志貴が器用に等分に茶碗へと注ぎ、

「じゃあ、最後にお互いの生還を祈って」

「ああ、互いの勝利を祈って」

「「乾杯」」

もう一度茶碗をぶつけ合い残された酒を一気に飲み干した。

そして夜は明け二人にとって運命の夜は過ぎていった。

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